「イシクニズム」 Vol.14

「イシクニズム」 Vol.14

名付け親

 

商品やサービスや店舗には様々な歴史があります。
同じ商材でも「元祖」や「本家」等を謡う店舗がいつかあって創業の歴史を競い合っている場合もあります。

 

私もこれに似た経験をしたことがあります。
30年ほど前になりますが時計ベルトブランドの名付け親になったことがあります。

 

ヨーロッパに拠点を置く時計ベルトメーカーA社は、日本のマーケットに量販店向けの商品を供給していました。
A社は本国で質の高いベルトを作るB工場を買収し、高級路線の商材の展開を始めました
。高級路線の商材を日本で展開するに当たり、日本の時計ベルトメーカーC社と代理店契約を結びました。

 

ある日、A社の担当者とC社の社長が当社を訪れ日本での展開について相談を受けました。
A社の新商品は品質も良く日本での高級路線展開は問題ないと思いました。
一方でA社のブランド名は量販店向け商品として名が知られていて、高級時計店や百貨店で取り扱って頂くには苦労するだろうと思い伝えました。

 

打開策としてブランド名を新たにすることを提案しました。
その後新ブランド名の協議となり、A社の社長の名前やA社の街の名前なども候補に挙がりましたが、ピンとくるものがありませんでした。
いくつもの案の中で新しく買収したベルト工場の工場長の名前が挙がりました。只々かっこよかった。
この名前にしませんかとご提案しました。
A社の担当者とC社の社長は検討しますと言って帰られました。

 

数か月後、A社から工場長の名を冠した時計ベルトが本国で発表され、その後C社を通じて日本でも展開されました。
日本取扱一号店として当社の全店にてお取り扱いをし、お客様にご案内、ご提供させて頂きました。
お客様、A社、C社、当社と全員が笑顔になりました。

 

さて名付け親は誰かという事ですが、現在のA社の日本支社の社長にこの話をすると信じられないという顔をしていました。
「本国の担当者が決めたと思いますよ」と言っていました。
C社の社長は「私がA社との協議の中で提案した」と言っています。
私は私で工場長の名前にしませんかと最初に提案したのは私なので私だと思っています。
結果として3人の名付け親が産まれました。
世代が変わるとこの話も埋もれてしまい争いになることもあるのかもしれませんね。

 

当時A社が買収したB工場は、その後D社に売却されA社は別の工場で製造しています。
現在A社は、C社との代理契約も終了し、自社で日本支社を作り工場長の名を冠した時計ベルトを展開しています。

 

D社はB工場で作ったベルトを別のブランド名でC社と代理店契約を結び日本で展開しています。
なんか複雑ですね。

by Kunihisa Ishida