時計の名称(外装部)のお話
今回は時計の外装部分の名称についてお話をします。
まずは時計の個々の名称を図にまとめてみましたのでご覧ください。
基本的な部分のみなので、時計に詳しい人にとってはよくご存じの名称ですね。
今回は、これから時計のことを知っていきたいという方に向けて、なるべくわかりやすい言葉でお話していきたいと思います。
では、各部分につきまして個別に解説していきます。
「ベゼル」
ベゼルとは、本体の表面側にあるガラスを取り囲むリング部分のことです。
回転するものと回転せずに固定されているものがあります。
ファッションウォッチの中には、簡単に取り外しができ、別のベゼルに取り替えが可能な時計もあります。
ベゼルは多種多様で、ロレックスに「フルーテッドベゼル」や「サンダーバードベゼル」、「エンジンターンドベゼル」など多様なベゼルがあるように、他のブランドにも様々なデザインのベゼルが存在します。
ベゼルはデザインとしての役割のほか、タキメーターやGMT、防水時計の潜水時間や酸素残量を確認するための逆回転防止ベゼルなど、時計によりその役割は異なります。
「ケース」
ケースとは、ムーブメントや文字盤を覆うボディ部分です。
ケースには様々な素材が使われています。
・K18
・プラチナ
・サファイアクリスタル
・シルバー
・ブロンズ
・カーボン
・アルミニウム
・ステンレススティール
・プラスチック
・セラミック
・石
・木
などがあります。
ケースはブレスレットを除けば一番大きい体積を持つ部品であるのと、複雑な加工技術を要するため、時計の価格設定に大きく影響を及ぼす部品です。
【ステンレススティールSUS904Lについて】
ケース素材の中で見る頻度が高いのはステンレススティールケースだと思いますが、このステンレススティールにもたくさん種類があります。
高級時計のステンレススティールにはSUS316Lが採用されることが多いですが、近年のロレックスでは強度と耐蝕性の高いSUS904Lが使われています。こちらのSUS904Lの加工はけっこう難しいと聞きますので扱うのも容易なことではないのかもしれません。それでも、近頃はロレックス以外にもいくつかのブランドがステンレススティールモデルにSUS904Lを採用しています。
また、加工技術や工具類なども日々進化していくと思いますから、近い将来にはSUS904Lが多くのブランドで採用されているかもしれないですよね。
「石國商店 大手町店」や通販サイト「石國商店EC」で取り扱っているボールウォッチもSUS904Lを扱うブランドの中のひとつで、SUS904Lを使用したモデルをたくさん見つけることができます。
【ケースの形状について】
時計のケースには形の違いによってさまざまな呼び方があります。
よくある丸いかたちのラウンドケース。ノモスグラスヒュッテのテトラに見られるスクエアケース。フランクミュラーのトノウカーベックスのように樽の形をしたトノー型。ヴィンテージウォッチでたまに見かけるクッション型。ロイヤルオークなどに見られる8角形のオクタゴンケースなど、時計ケースの形状も様々です。
もちろんほかにもいろいろな形状のケースが存在します。たとえば画像にはありませんが、アイグナーにみられる馬蹄の形状をしたものや、ハミルトンのベンチュラのように三角形のかたちをした特殊な形状のものなどもあります。
「ガラス」
ガラスとは、文字盤部分を防護するために覆っている透明部品のことです。
プラスチックガラスなどは「風防(ふうぼう)」と呼んだりもします。過去には私が風防を「ガラス」と呼んでいたら時計職人の大先輩に「ガラスじゃないよう、風防だよ!」と怒られたこともありますが、こちらでは便宜上「ガラス」でまとめておきます。
素材にはプラスチック風防(有機ガラス)のほか、ミネラルガラス、サファイアガラスなどが採用されています。
【サファイアガラスは細かいキズが付きにくい】
高級時計では、多くのブランドにサファイアガラスが採用されています。
サファイアガラスはミネラルガラスなどと比べても部品の単価が高くなるため時計価格にも影響が出ますが、硬質でスクラッチ傷がつきにくいという素晴らしい特徴があります。もちろん強い衝撃を受ければ破損することはありますが、風防やミネラルガラスによくみられる使用キズのよう細かいキズがなかなか付きにくく、長年使用し続けていれば、サファイアガラスのありがたみを知ることになると思います。
個人的な話ですが、私が時計を購入するときにはサファイアガラスのものを選びがちです。
「リューズ」
リューズとは時刻を合わせるための突起です。
漢字では「竜頭」と書きます。
一般的には3時側に付いていることが多いですが、5時位置や9時位置、懐中時計のように12時位置に付いている時計もあります。
リューズは内部のムーブメントに伸びるマキシンという細い金属の棒と繋がっています。
通常は専用の接着剤でマキシンに固定されていますが、その接着剤が劣化するとリューズが外れてしまうことがあります。また、内部のオシドリという部品が壊れるか、そこを固定しているネジが緩むときにはマキシンごと抜けてしまうことがあります。
リューズは時刻合わせのためだけではなく、手巻式時計や自動巻式時計(手巻き機能付き)の場合には、ゼンマイの巻き上げのためにこのリューズが使われます。一般的に時計周り(右回転)に回すとゼンマイが巻き上がります。
ほかにも、カレンダー付きの時計の場合には、このリューズを使ってカレンダーを合わせます。
一般的には2段引きになっていて、軽く引いた1段目の位置でリューズを回すとカレンダー合わせができる仕様のものが多いです。
※それ以外の方法によってカレンダー合わせをするモデルもありますので、メーカーが発行している取扱い説明書などで正しい操作方法をご確認ください。
「文字盤」
文字盤とは、ブランドロゴやインデックスなどがデザインされている板のことで、この文字盤の上面に針が配置されます。
「文字板」と書かれることもあります。また、昔の職人などは「エト」と言う人もいます。また、メーカーやメディアなどによっては「ダイアル」と表記しているところもあります。
文字盤は様々なデザインや工夫が施され、精密機械や職人技により丁寧に作り上げられていきます。文字盤は人間でいえば顔に当たるため、時計のパーツの中でもそのブランドの個性や芸術性を一番表現しやすい部品になります。
文字盤にはいろいろなものが存在します。
たとえば
・真鍮などの金属プレートにプリントしたもの。
・ロゴやインデックスなどが植字(しょくじ)になっているもの。
・ギョーシェ(ギヨシェ)彫りによる芸術的な装飾が施されたもの。
・エナメル仕上げをされたもの。
・金貨を加工使用したもの。
・表面にクジャクなどの羽を用いたもの。
・貝を用いたもの。(マザーオブパール(MOP)と呼ばれています)
・ロレックスに見られるメテオライト(隕石)を用いたもの。
・K18を使用したもの。
・ダイヤモンドなど輝石が敷き詰められたもの。
・中の機械が見えるようにスケルトン加工されているもの。
・暗いところで光る仕様のもの。
など、ほかにもいろいろな仕様の文字盤があります。
【文字盤のカラーには流行がある?】
文字盤のカラーも様々で、目立つカラーのものはカラーダイアルと呼ばれたりもします。
各ブランドが同じ年に似たようなカラー文字盤のモデルを発表することがあります。
以前にはネイビー文字盤が流行していたように感じる時期がありました。とある有名時計雑誌に掲載された各ブランドの新作の多くがネイビー文字盤だったこともあります。その後にグリーン文字盤を多く見かけるように感じていましたが、ここ最近にはアイスブルー(水色)文字盤が少しだけ流行しているように感じています。
世界を見れば毎年インターカラー(国際流行色委員会:INTERNATIONAL COMMISSION FOR COLOR)やアメリカのPANTONE社などが流行色を発表していますし、日本でも日本流行色協会(JAFCA)が流行色を発信していて、流行色の存在がファッション業界や製造業界に欠かせないものになっていますよね。腕時計もファッションアイテムですし、人が身に付けるものですから、そのようなトレンドがあっても不思議ではないと思います。
ただ、時計の文字盤カラーの流行については、ファッション業界で流行しているものとリンクしているかどうかまではわからないので言及しません。個人的に見ていると時計には独自の流行があるようにも感じています。
「針」
針とは、アナログ時計の時刻を指し示す部品で、時を知るうえでは何より重要な部品になります。
・長い針が分を示し、長針(ちょうしん)もしくは分針(ふんしん)と呼ばれています。
・短い針が時間を示し、短針(たんしん)もしくは時針(じしん)と呼ばれています。
・秒を示す針は秒針(びょうしん)と呼ばれています。
また、「剣」という言葉で表現されることもあります。
時計によっては秒針を使わない場合もあります。
一般的に、長針と短針の2本のみ使用する場合はその時計を「2針時計」、長針と短針と秒針の3本を使用する場合には「3針時計」と呼ばれています。
また、クロノグラフのような複雑時計の場合にはクロノ針(12時間計、30分計、ストップウォッチ針など)が付いていて、「クロノグラフ」とか、「クロノ時計」などの名称で呼ばれています。
GMT(ジーエムティー)の時計だとGMT針が付いており、「GMT時計」と呼ばれています。
なお、針は形状により様々な呼ばれ方をしています。
なお、これらを説明するときには、名称のうしろに「針」を付けることが多いです。
(例:ブレゲ針)
また、ムーブメントの機構によって針の位置関係が異なることがあります。
文字盤の中央に針の軸があり、すべての針がそこを中心にして360度回転する時計をよく見かけると思いますが、以下のようにそうではないタイプの時計も存在します。
【レギュレーター時計】
それぞれの針が独立しているものをレギュレーターと呼びます。
以前こちらのコラムでご紹介したクロノスイスというブランドは、レギュレーターのモデルを多く製造しています。
【スモールセコンド】
長針と短針は中央の軸にあって、秒針だけが3時側や6時側や9時側などの位置に独立しているものをスモールセコンドと呼んでいます。アンティーク時計などクラッシック時計によく見られましたが、現行の時計でもスモールセコンドの時計は珍しくありません。
その名のとおり中央の針よりもスモールセコンドの針のほうが小さくなるため、秒をはっきりと確認したい人には少し見えづらいかもしれませんが、センターセコンドのものとはまた違って見えるそのルックスに惚れ込む人も多くいます。
参考資料:スモールセコンドの腕時計「ORIS(オリス)のビッグクラウン ポインターデイト」
ほかにも、360度回転の針の動きとは異なり扇型に運針する「レトログラード」という面白い機構の時計などが存在します。
「カレンダー」
カレンダーは、文字盤の一部にある日付や曜日を示す表示枠部分の総称です。
カレンダーには「曜日と日付が両方あるもの」と「日付だけのもの」があります。
また、稀に西暦(4桁)の年表示がある時計もあります。私はジャガールクルトの機械式パーペチュアルカレンダーで見たことがあります。
日付部分はアラビア数字の表記が多いです。
一方、曜日のところについては、様々な言語が使われています。
国産時計(日本国内販売)の場合は、漢字や英語が使われているものをよく見ますが、海外のブランドでは日本で購入した場合でも英語以外の外国語表記があるものを目にすることがあります。
例
漢字(日本語) 日⇒月⇒火⇒水⇒木⇒金⇒土
英語 SUN⇒MON⇒TUE⇒WED⇒THU⇒FRI⇒SAT
スペイン語 DOM⇒LUN⇒MAR⇒MIE⇒JUE⇒VIE⇒SAB
海外で販売されている時計には、ドイツ語やフランス語など様々なご当地の言語が使用されています。
【パーペチュアルカレンダー機能】
時計のカレンダーは31日まで表記があるため、通常は30日以下の小の月(2月、4月、6月、9月、11月)のときにはその月に存在しない日を手動操作で飛ばさなければなりませんが、それをうるう年の計算も込みで自動的に日付を合わせてくれる便利な機能(パーペチュアルカレンダー)を持つ時計があります。
初期設定がちょっと面倒なことが多いですが、それさえ行っておけば大変便利な機能です。
★パーペチュアルカレンダーにちなんで その1…「大の月 小の月の覚え方」
1月から12月までは大の月(31日の月)と小の月(30日以下の月)とに分かれていますが、皆さんはこの大の月、小の月をどのように覚えましたか?
私は王道ではありますが、西向くサムライ(にしむくさむらい)で覚えました。
つまり、2(に)、4(し),6(む)、9(く)……11(さむらい)
知らない人からすると最後の「サムライ」ってなんやねん! と思われるかもしれませんね。
これは、11を漢字で書くと十一、これを縦にすると「士」になり、サムライと読めるようになります。サムライは「侍」と書くことが一般的だと思いますが、「士」でもサムライと読むことができます。
余談になりますが、トランプにあるスペード♠は剣を表していて騎士を意味しますが、よく見ると「士」に似ていませんか?
(ほか、ハートは僧侶、ダイヤは商人、クラブ(クローバー)は農民を意味しているそうです)
「西向く士」は、お子さんがカレンダーを覚えるのにもとても便利な語呂合わせだと思います。
★パーペチュアルカレンダーにちなんで その2…「うるう年(閏年)の覚え方」
では、続いての質問ですが、皆さん、うるう年はどのように覚えていますか?
インターネットで探せば情報はすぐ見つかりますが、私はいつも単純に「オリンピックイヤー」で覚えています。
前回の東京オリンピックは2020年で(実際には2021年に行われましたけど)、その2020年が前回のうるう年でした。
つまり、パリでオリンピックが開催される今年2024年はうるう年です。
でも、4年に一度必ずうるう年が来ると言ってしまうと、100%正解とは言えなくなります。
オリンピックイヤーは(前回の大会のような特別な事態がないかぎり)4年に一度ありますが、うるう年は必ず4年に一度訪れるわけでもないのです。
といってもこれはかなり例外です。
うるう年かどうか判断するためには以下の計算方法があります。
1)西暦年号が4で割り切れればうるう年
2)ただし、西暦年号が4で割り切れても、100で割り切れてしまえば平年(うるう年ではない)
3)西暦年号が4で割り切れて、100で割り切れたら2)の通り平年だが、さらに400で割り切れればその年はうるう年になる
なお、今度100で割り切れる年は西暦2100年です。2100年は400で割り切れないので2)の条件のまま平年です。
私は、127歳まで生きていればこの「うるう年にならない西暦2100年」を迎えることができます。127歳まで生き続けた暁には、いま書いているこのコラムのことを思い出したいと思います。
【電波機能によるカレンダー自動修正】
前述のパーペチュアルカレンダー機能とは別に、電波時計の機能によるカレンダーの自動修正があります。これも広義にはパーペチュアルカレンダーと言えるかもしれませんが、その仕組みはまったく異なります。
前述のパーペチュアルカレンダーの場合にはムーブメントそのものに修正機能が備わっていますが、電波時計の場合には、受信する電波の中に時間情報以外のカレンダー情報が入っています。電波を受信する際にカレンダー情報も取得して自動的に修正されています。
「インデックス」
インデックスとは、時刻を知るための目盛りや文字です。
針との位置関係で時刻を正確に把握できます。
インデックスにはいろいろなスタイルがあります。
使用しているフォントなどによってもだいぶ雰囲気が違いますし、先述の文字盤のデザインにおいてもインデックスは大事な要素となるため、時計を特徴付ける重要な部分と言っても過言ではありません。また、インデックスは時計の視認性と密接に関係してくる部分です。
インデックスにもいろいろありますが、代表的な3種を図にしてみました。
インデックスには、アラビア数字や、ローマ数字、バーのほか、上には記載されていませんが、ポイントインデックスや、もしくはダイヤインデックスのように輝石を用いたものなど、様々なスタイルがあります。
また、あえてインデックスを用いない時計もあります。
【ローマンインデックスの不思議】
ローマ数字のインデックスを採用している時計をよく見ていると不思議に思う箇所があります。
下のカルティエの時計の4時位置のローマ数字はどのような文字になっているでしょうか。
通常ローマ数字では4を「IV」と記しますが、多くの時計の場合、4時位置にあるのは「IIII」という文字です。
皆さんはご存じでしたか?
通常ローマ数字は「I」が1を意味して、「I」が2つ並ぶと「Ⅱ」になり、2を意味します。少し飛んで「V」は5を意味します。そして、一つ戻って4は5の一つ前ということで、通常は「V」の左側に「I」を置いて「IV」と表記して4を意味します。(ちなみに6はVの右側に「I」を置いて「VI」となり6を意味します。)
ところが、なぜか時計の4時に関しては、「I」を4つ並べて表記しているものが多くあります。
この理由についてはインターネットなどで調べると諸説出てきますが、ここでは文字数の関係上そこまで言及しません。
また、このカルティエの時計のように、インデックスの文字が円周に沿って外向きに配置されることで「III」が横を向いていたり、「Ⅴ」や「Ⅵ」や「Ⅶ」がさかさまになっている時計をよく見かけます。※もちろんそのようになっていない時計もあります。
こうやって文字盤を見ているだけでも時計の世界は広くて深いなと思ってしまいます。
ーーーーーーーーインデックスのお話はここまで
今回の時計の名称についてのコラムは以上となります。
昨年の夏に時計雑誌の表紙撮影などで有名なプロカメラマンの岸田克法さんに写真の撮り方をご教授いただいたことがありまして、その中で、自分が今腕に着けている時計を見ずにその絵を描き起こす機会がありました。
そのとき、いつも身に着けている時計なのに、まともに描けなかったことを覚えています。
皆さんは自分の愛着のある時計をしっかりと思い描けますか?
文字盤のインデックスなど細かいディテールを把握していますか?
自分の時計だからといっても、意外と細かいところには気づいていなかったりすることもあるかもしれません。
この機会にご自分の時計を手に取ってよく眺めてみましょう。もしかしたら何か新しい発見があるかもしれないですよ。
by Tetsuro Enomoto
<「東京レザーフェア」に行ってきました